動く生活・かぱぴぷログ

人は時間がある限り、生から死へ動き続けてます。そのさ中に考えたことです。

臆病もの・・・

1.「僕は28才。
  もう大人。
  でも、みんなからは『臆病もの』って呼ばれている」

2.「だれか助けて~!
  子どもが川に落ちたの!
  助けて~!」

3.「僕は駆けて行った」

4.「助けて!お願い。誰か、どなたか。
  わたし、泳げないの・・・」
 「(溺れている女の子・5才)ゴボッゴボ・・・ゴボ・タチュケ・・・」

5.「僕はドキドキした。
  早くしないと・・・でも、だれか、そう、誰か、きっと・・・
  僕より大きくて、頑丈で、強い誰かが、きっと、助けるぞ!」

6.「僕は周りを見た・・・!?みんな黙っている」

 「お願い。早く。お願い。助けて」

 「やっぱり、黙っている。そして、僕も」

  日に焼けた小麦色の若者。
  立派なヒゲを蓄えたお父さん。
  ジョギング姿のスポーティーなカップル。
  バットとグローブを担いだ野球少年。
  隣のおばちゃんと目を見合わす買い物帰りの主婦。

 「みんな、黙っている」

  泣きべそかいている小さな男の子の前の空気だけが動いている。
  その場から去る人もいる。

 「タ・ス・ケ・テ・・・・ダレか・・・」

7.杖、突きながら、おばあちゃんが
 「今。行くからよー。しっかりすべーよ!」
  と、ゆるーりと前に出てきた。

 「僕は泣きそうになった。
  僕の顔、たぶん、イガンでいる」

8.「クソー。チキショー!」
 「僕は飛び込んだ!」

  夢中で女の子の手を掴んだ。
  そして、泳いだ。

9.「お母さんが、僕に、『ありがとう、ありがとう』と
  何度も何度も言った。
  ・・・涙が溢れそうになった」

10.「周りを見た。
  もう、誰もいない。
  なにも、なかったかの様だ」

11.「ボク、頑張ったね!」
  振り向くと、
  杖、突いた、おばあちゃんが笑っていた。

                 ---終