動く生活・かぱぴぷログ

人は時間がある限り、生から死へ動き続けてます。そのさ中に考えたことです。

「散歩の記録」

動く生活のかつみンです。


 

パワハラパワハラじゃないかの行方

登場人物
ç佐藤(48女性)・・・営業部・配送担当パート
上本(50男性)・・・営業部・主任
谷口(55男性)・・・営業部・社員

  ・      ・
稲盛(58女性)・・・佐藤の同僚、名前のみ

小会議室で。

両手をデスクの上で組み、丁寧に話している上本主任。
神妙に聞いている配送業務のパート、佐藤。


上本 「実は、佐藤さん、一応ね、念の為に聞いてみたんよ」

佐藤 「はー、誰にですか?」

上本 「僕も前々から何か気になってたし。私らところ、知っての通り4人しか居ないでしょ。すっきりしなイカんやろと思って、この際・・・」

佐藤 「ええ」

上本 「で、稲盛さんに聞いてみました」

佐藤 「そうですか・・・」

上本 「何もないって!」

佐藤 「!?」

上本 「そう言ってましたよ。別に何もないと」

佐藤 「へ~、嘘でしょ。冗談じゃないですよ。あん人、アホ、ボケ、間抜け、オバン、オバンって散々、云いたい放題言われてたんですよ。真横で聞いてんだから、私も。
だからさ、ホンと、腹立つね!もう、プッツン切れそうになるよねって云ったらさ、稲盛さん、何度か爆発しそうになったって言ってたもん!おかしいな・・・?」

上本 「でも、稲盛さん、谷口さんと楽しそうにワーワー言いあってんの、私も見てんねんけど、あれは、どうなの」

佐藤 「!?・・・」

上本 「パワハラないかって?聞いたら、いや、ない。気にしませんって!」

佐藤 「気にしません!そうですか・・・」

上本 「佐藤さんが嘘を云ってるとは思ってないんですけど。日頃のね、態度見てると真面目だし・・・。稲盛さんにも何度か、ないか、って確かめたんやけど、本人が無いって云ってるんだったら、ね。別に否定することもないし」

佐藤 「・・・」

上村 「それともう一つ、本人にも伝えましたよ」

佐藤 「!」

上村 「で、そんな感覚はないって。身に覚えないって。大体、佐藤さんに憎いとか嫌いとかそんな風に一切思ってないって。もし、仮に、云ってたなら、悪気は無いって」

佐藤 「(えー、ウソだ〜)」

上村 「だから、話し合ったらどうかなって思って」

佐藤 「?!」

上村 「さっきも云ったとおり、私たちの部署、4人しかいないし。スッキリさせた方がええかと思って。その方がええでしょ、佐藤さん」

佐藤 「ええ・・・」
     
     出て行く、上村。     
     目を閉じ、静かに待つ佐藤。
 
   
     声が聞こえて来る。

上村・声 「さぁ、谷口さん、そっちへどうぞ」
谷口・声 「はい、すみません」
     

     椅子を引き、座る音。     

     谷口は佐藤の前、上村は横に移る。

上村・声 「ここで、思ったことを言っといた方がええかと思って、お互い、二人とも」
     
     目を開ける、佐藤。
     
     前には、いつもの意地悪そうな顔ではなく、     
     緊張して神妙な谷口がジーっと見つめている。
     
     その谷口が、
    
   「ええ、そうですね。上村さん」

佐藤 「(ああ、これだ!上司と部下この変わり身、このトーン)」

上村 「悪いけど、私はここで聞かしてもらうわ・・・どうぞ、佐藤さん」

佐藤 「はい、もう、聞かれたかと思いますが、アホ、バカ、間抜けって、バンバン言われるのは辛いです。しかも、人前で、さらに、入ったばっかりの臨時の学生バイトの前で、あんなこと、よう平気で言えるかと思います。フツーだったら、もし、こっちに至らないことがあったとしても、人前で罵倒したようには言わないと思います。私ら歳が歳なんだから、二人の時に注意するとか・・・。
なんか、こんなこと生まれて初めてです、信じられません」

谷口 「・・・すみません。もし、佐藤さんがそう感じていたんなら、ゴメン。この通り、謝ります。ゴメンなさい。私は、そういう風に云った覚えはないんです。佐藤さんが憎くて、嫌いで、イヤやってなことは全く無いんです。そんなことは思っていません。そんな気持ちもありません。ただ、注意ということでいろいろ云いはしました。私も忙しくて、いらいらして思わず云ってるかもしれませんが、悪気は無いです。云ってたら、すみません。ゴメンなさい」

佐藤 「・・・」

谷口 「本当に、あくまでも、夢中になって、佐藤さんのこと思って云っちゃうんです・・・」

佐藤 「・・・」

上本 「佐藤さん、まだ、あったんじゃないの・・・運転してたらって」

谷口 「(上本にチラッと目が走る)」

佐藤 「(誰に云うともなく)勝手にハンドル触ったり、ギアチェンジしたり、信じられません。とっても、危ないです」

谷口 「あれは、危ないって思って」

上本 「・・・」

佐藤 「でも、突然、急に、その方が・・・というより、口で普通に云ってくれれば」

谷口 「佐藤さんは右に寄り過ぎなんです。止まれのところも、きちんと止まらないと」

佐藤 「判っております」

谷口 「じゃ、なぜ、あの時、右に」

佐藤 「あの時は、左に人が来ると思って・・・というより、突然、ハンドル握られて、操作されるってなんてこと始めてです。失礼ですけど、私も車関係の仕事やってきて納車や引き取り、二十何年はやってきたんです。フツー、そんなことしないでしょ、どうですか、上本さん」

上本 「(頷き、谷口を伺う)」

谷口 「私は、本当に危ないっと思ってつい手が、悪気はないんです」

佐藤 「・・・(もうどうでもいい)」

上本 「他には」

佐藤 「いつも、なんか、慌てさせます。早よ、早よって、時間がある時でも、急かし、煽ります。だから・・・それだけではないと思いますが・・・失敗も出ます。さらに、怒って罵倒します」

谷口 「佐藤さん、仕事遅いからです。稲盛さんのように、早よしろとは云いませんが、もう少し、早くやってもらいたくて」

上本 「そうですね、それは、私も少々、感じてはいました。でも、まぁ、ぼちぼち、慣れてくれればと」

谷口 「それに真剣に聞いてない感じもします。メモを取れって言っても、すぐ、忘れるし、いろんなこと、覚えていかないし、そういうこともありますし・・・」

佐藤 「そのことについては、すみませんでした」

谷口 「・・・」

佐藤 「・・・」

上本 「他には」

佐藤 「いえ、もう、別に」

     上本、谷口を伺う。

谷口 「(頷く)」

上本 「どうですか、これで。お互い、少しはスッキリしたんじゃないですか。このまま、ズルズルいくよりは、いいと思うんです。いいですかね」

     
佐藤、ゆっくりと帰り仕度をして、二人に挨拶を交わす。

佐藤 「ありがとうございました」
    
     座ったままの上本は軽く会釈をし、    
     谷口は座ったまま、佐藤を目で追うだけ。


     職場から、   
     逃げるように駆けてくる来る佐藤。

    「稲森さんも・・・か・・・?」

佐藤  
「言葉の暴力、パワハラのことを言っているのに、話がすり変わったようだ。嘘つきなのか、無自覚なのか。不可解な後味でした。
この話し合いは、辞める2日前のことでした。その時の私の心は既にここに在らず、前へ向かって歩き始めていました」


                                     終。




*                 *


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